本屋でバッタリ逢った。


特に話すこともないから、挨拶だけして通り過ぎようと思った。


他校で同じ年。

部長。

テニスの巧い奴。

俺から一勝取った奴。


そんな認識しか無かったはずなのに。


指先が触れた瞬間、俺の中で何かが始まった。


触れた指先


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部活の帰り道、ふらりと立ち寄った本屋に跡部の姿があった。

こんなところで珍しいな。などと考えながら見ていると、俺に気付いた跡部がパラパラと捲っていた雑誌を閉じて振り返る。


「手塚、買い物か?」


ふいに声を掛けられて、俺は難しい顔をした。

跡部は一瞬目を瞬かせたが、肩を竦ませて微笑んだ。


「そんな難しい顔するなよ」

「すまない。そう言うつもりではないのだが・・・」


答えが決まっていない会話をするのは苦手で。何を言ったら良いのかよく分からなかった。

跡部はクククと笑い、俺の前に立つとじっと見つめてきて再度瞬きをしてくる。


「何だ?」


眉間に皺を寄せて軽く睨み付けるように言えば跡部は、


「いや、お前の顔ってこんな間近で見たことねぇから」


そう言って、柔らかに微笑んだ。


跡部に言われて気がついた。


俺も、初めてこんな近くで跡部を見た。


瞳の色が碧いことを知った。

色素の薄い髪が柔らかに流れているのを知った。

肌が透き通るように綺麗なことを知った。


お人形さんのようだな。

そんなことを考えながら跡部を見返すと、俺を見る跡部の視線とぶつかり、俺は一瞬瞳を泳がせた。


「見なくていい」


ぶっきらぼうに言い放って溜息を零すと、笑んでいた跡部の顔が真顔に変わり、俺を見つめて唐突に言う。


「お前笑えば?」


俺は目を見開かせた後、眉根を寄せて不機嫌な声を出した。


「何故笑わなくてはならない?」

「その方が絶対綺麗だぜ」


瞳を細めて柔らかい声色で跡部が言う。


綺麗?

綺麗というのはお前のようなことを言うんじゃないのか?


決して線が細いわけでは無いのに、整った顔立ちは同じ性を持っているとは思えない色香を備え、光の反射で変わる瞳の色は、見つめて いるだけで胸が高鳴るような綺麗な宝石色で。

そんな奴に綺麗など言われたくない。


俺は益々眉間に皺を寄せ、声を低めた。


「馬鹿馬鹿しい」

「そう言うと思ったぜ」


片手で軽く拳を作り、それを口元に持っていって跡部が笑う。


「でも俺様はマジで言ってるんだぜ」

「くだらない」


そう言い放って跡部の横を擦り抜けようと体を捻ると、口元にあてがっていた手の拘束を解いて跡部の腕がゆるやかに動く。


「あっ・・・」


振り下ろした跡部の指先が、体を捻った自分の指先と触れ合った。


「ん?」


跡部がふと目線を落としてその指先を見つめる。


伏せた目元に流れる長い睫毛。


何故だか鼓動が早くなる。


「ワリィ。大丈夫か?」


下から見上げて跡部が眉根を寄せる。

何のことだと自分の指先を見ると、薄く赤い線が引かれている。


「こいつで引っ掻けたみたいだ」


跡部は自分の指を前に立て少しばかり伸びた爪を俺に見せる。


「大丈夫だ。気にすることはない」

「けどよ・・・」


目を伏せて言えば、跡部は俺の指を見て顔を顰める。


「左じゃなくて善かったぜ」


口角をあげて、跡部が安堵する。


「傷と言うほどでもない」


跡部を見ながらそう言って、俺はその傷に舌を這わせた。


「手塚・・・!」


跡部が驚いたような声を出す。


「何だ?」


驚く意味が分からず首を傾げて問い掛けると、ニヤっと口端を上げた跡部が俺の指を取り、唇を寄せてきた。

俺は咄嗟に跡部から自分の指を振りほどくと、瞳を見開かせて跡部を見つめる。


「お前、可愛いんだな」

「・・・は?」

「じゃあな、手塚。また」


俺の前でひらひらと手を振りながら踵を返す跡部。

俺は跡部に言われた言葉が旨く消化出来ず、暫しその背中を見ながら立ち竦む。


「可愛いと言うのは、女性に言う言葉だろう?」


溜息を吐きながら独り言を呟いて跡部の唇が触れた指先をじっと見る。


触れられた部分が熱を持って熱い。


自分の中で沸き起こる感情に戸惑いながらも、気付けば俺は笑みを浮かべて自分の指にキスをしていた。


跡部が触れた指先に・・・・。


【Fin】

 

 

小池夏樹様から
30万ヒット記念でいただきましたm(_ _)m

まだ、お互いに認識しているようで認識していない、
淡い学生時代の雰囲気が…とてもGOOD JOBです♪

ありがとうございました〜m(_ _)m

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