綺麗に整った唇が俺を誘う。

コートの中で集中力を欠いたことなんかねぇのに。

気付いたらワンゲーム取られてた。

小さく舌打ちをして手塚をちらりと見ると、ラケットを握り締め唇を引き結んでいる。


綺麗な唇。


引き結ぶと、その綺麗さが引き立って、まるで誘われているようだ。


ガットを指先で弾いては、眉根を寄せている。

試合後の火照った体が、頬を微かに高潮させている。

そんな些細な手塚の表情が、俺を煽る。

--------------------------------------------------------------------------------


ベンチに腰掛けてドリンクに腕を伸ばすと、目の前に立つ手塚が俺にタオルを差し出して眉間に皺を寄せる。


「どうした?」


ドリンクに口をつけて肩を竦ませると、硬い表情を崩す事無く手塚が低い声で言う。


「何を考えてたんだ?」


僅かに怒気を含ませた手塚の声が、俺を突き刺す。


なるほど。怒りは俺の今の試合に向けられているわけか・・・。


俺は渡されたタオルで汗を拭きながら上目で手塚を見る。

腕を組んで眉間に皴寄せて立つ姿は、まるで昔の手塚。

懐かしさに、俺はクスッと笑った。


「何を笑っている?」


不機嫌な声で手塚が聞いてくる。

だから俺はわざと言葉を選んで返す。


「腕なまってねぇよな」

「・・・?」


云われたことが分からず小首を傾げる手塚の前で俺は口角を上げながら指を鳴らす。


「ああ、なるほど」


俺の云いたかったことに気付いた手塚が、ポンっと手を叩いて云う。

俺は徐に手塚の手を取り自分の膝上に座らせると、眼鏡を外して唇を塞いだ。


「跡部!」


いきなりのことに呆れ声の手塚が、それでも嫌がるわけではなく溜息をついて零す。


「だってよ・・・」

「何だ?」


俺は耳に掛かる手塚の髪を掻き上げて耳傍にキスをして言葉を返す。


「お前、綺麗すぎるんだよ」

「ばっ・・・馬鹿かお前は!」


羞恥に首筋をほんのり赤らめて手塚が横を向く。


「そんなことと、今の試合と、さっきの言葉と。どこに共通点があるんだ?」


呆れた声をさらに呆れさせ手塚が問い掛けてくる。


俺は手塚の細い腰を抱き寄せてクスッと笑みを零すと、裸眼のままの手塚の瞳が揺れ動く。


「跡部?」

「昔から、いつでも、どんな時でもお前が扇状的でたまらねぇなぁってことだろうが」


ぽそりと言って耳朶を甘噛みすると、手塚の肩が小さく揺れる。


「何年経っても変わらねぇなぁって思ったんだよ」


髪を撫で、項に指を這わせて囁くと、手塚が軽く俺を睨み付けて言う。


そう、そんな瞳も、桜色に濡れる唇も。

何一つ変わらない。

綺麗なままの手塚。

真っ直ぐな瞳を熱情に変える手塚。


俺は掠めるように手塚の唇にキスをしてフフンと鼻で笑う。

すると、呆れ顔を更に呆れさせながら、手塚が軽く溜息を吐いてぽそっと言う。


「お前も何一つ変わらないな。全く・・・ここはテニスコートで今はまだ昼だぞ」

「昼に欲情しちゃワリィかよ。お前が煽るからだろう?」

「煽るか馬鹿」


ほんのりと頬を染めて手塚が横を向く。

いくつになっても、こう言うところは変わらない。

それが俺を煽りたてていることにさえ、気付いてない。

その証拠に、手塚は俺の膝の上から降りようとしない。

それどころか、首に腕まで絡ませている。

いつになったらお前は気付いてくれるんだろうか。

こうして共に歩むことを俺がどれだけ望んでいたか。

こうしてお前を自分の腕の中にいつまでも閉じ込めておきたいと望んでいるか。

お前が俺の隣に居るからこそ、俺は今日も歩いていけるんだってことに・・・。

お前はいつ気付いてくれるんだろうか?


ぼんやりとそんなことを考えながら、俺は自嘲気味に微笑む。


本当は気付いてる。

手塚はそんなに馬鹿じゃないから。

俺のことなんてすっかりお見通し。

だから今もこうして俺の首に絡めた腕を振り解こうともせず、濡れた瞳で俺を見上げてくる。

いつまでもこうして居ようぜ、手塚。

二人でどこまでも歩いていこう。


手塚の前髪を払い、額にキスをひとつして耳傍で囁く。


「やっぱテニス止め。部屋に戻るぜ」


手塚の体を横だきに抱え立ち上がると、きょとんとした瞳で見上げ、俺の首に絡ませた腕に力を入れる手塚。


「馬鹿跡部」


ぽつりと零して視線を逸らせる手塚の頬に、掠めるようなキスをして俺はコートを後にした。


今度はその綺麗な唇で俺の名前を呼んでもらうために・・・。


【Fin】

 

小池夏樹様から、 いただいた小説です♪

私が描いた手塚の唇から、
小説が生まれて…私が、またイラストを描いちゃったんですねぇ(笑)
ぷるるんな手塚の唇から…これまた<イチゴ国光>が、
生まれて…堂々巡りのような(笑)

素敵な小説ありがとうございましたm(_ _)m

BACK

 


copyright(C) 2012 krsna All rights reserved.